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2020/02/09

中之島香雪美術館◆「上方界隈、絵師済々」へ行ってきました

2020年、年が明けてからは初めてとなるアート鑑賞。
大阪は中之島香雪美術館へ行ってきました。
上方界隈、絵師済々チラシ
「上方界隈、絵師済々」
2019年12月19日~3月15日まで。
展示内容は、前期は円山応挙を中心とした京都画壇、後期は森狙仙などの大坂画壇の紹介。
私が行ったのは後期の展示でした。

江戸好きなもので普段は江戸時代の江戸のことばかり気にしていますが、
関西に住んでいる身としては江戸時代の上方についてももっと知りたいと思っている昨今。
ちょうどよい展示だとほくほくでかけただけで、上方の画壇については全く無知なのですが、
なんと木村蒹葭堂(きむらけんかどう)の絵がさらりと置かれていてびっくり。
いや、蒹葭堂について特に詳しいわけでもなんでもない、
少し前に読んだ「江戸の文人サロン」という本に出ていて、
「ああ!この人あの人!え、あの人の絵!?」
と顔見知りの作品を見つけたような、そんな気がしたのです。

蒹葭堂はこんな人↓
木村蒹葭堂

ね?一目見たら忘れられない個性的なお顔。ありがたい!

蒹葭堂がざっくりどういう人かというと、
江戸時代は中期ごろ、大坂は北堀江に住んでいた商家の息子で、
文人であり本草学者でありコレクター。
仲間を集めて絵を描いたり書を書いたりするサロンを開いていたのですが
そのサロンの規約がおおらかそうな容貌とは裏腹に、
「遅刻はダメ絶対。集中がとぎれるから談笑はダメ絶対」
というわりとキッチリしたもので印象に残っていました。
ま、当たり前といえば当たり前かもしれませんが。

そんな蒹葭堂の絵として展示されていたのは、
枇杷の枝にとまった小鳥と、もう一枚はお尻に毛が生えた亀。
お尻に毛が生えた亀は「蓑亀(みのがめ)」と呼ばれるもので
実際は藻が付着しているそうですが、縁起が良い生き物としてよく絵の題材になっています。
蒹葭堂の絵はぐぐると風景画がいろいろ出てくるのですが、
今回展示されていたものは、小鳥のまん丸な目が可愛らしくて
少し現代のイラストにも感じるような、そんなかわいらしいタッチでした。

※ちなみに「江戸の文人サロン」(揖斐 高著/吉川弘文館)という本はおススメ。
医者であり蘭学者でもある桂川甫周の美形ぶりや、その弟で戯作者でもある森島中良の変人ぶりも楽しいし、曲亭馬琴の偏屈ぶりもオモシロイ一冊です。
bunjin.jpg

さて、そもそも上方の絵師たちにガツンと衝撃を与えたのが
享保年間に長崎に2年程滞在した(ちんなんぴん)という中国の画家。
大変な人気を博し、帰国後も彼の作品が輸入されるほどだったとか。
たしかに「THE 中国」というイメージの彩り鮮やかで確かな筆致の作品。
異国になど行ったことがない当時の人から見れば、そこに描かれている風景は
耳に聞こえた桃源郷のようでうっとりと心溶かされたのではないでしょうか。
私は展示されている沈南蘋の絵を見ながら伊藤若冲を想起したのですが、
帰ってから調べたところ、やはり若冲も蘋の影響を受けているようですね。
蘋の作品展示に続いて、蘋の影響を受けた画家たちの作品が並んでいましたが
心惹かれたのは林 閬苑(はやしろうえん)という人の「得双寿図(とくそうじゅず)」。
木の枝にこぼれるように実った桃が色っぽくもあり、足が止まりました。

そういえば、中国の桃というのは現代の日本の水蜜桃のようではなく、
林檎のように固いのです。
その昔、学生時代に中国は北京に行ったことがありましたが、
その時に当地の人はみんな、桃を林檎のようにまるごと
ガシガシとかじって食べていたのが驚きでした。
桃は魔除けの意味があり、日本の神話でも
亡くなった妻・イザナミを取り戻そうと黄泉の国へ行ったイザナギが、
醜くなった妻の姿を見てしまい追いかけられて逃げる途中
桃を投げて助かるという話があります。
なるほど、あれは柔らかい桃ではなく、固い桃だからこそ魔を追い払うことができたのだと
腑に落ちたことがありました
(まあ、見ないという約束を破ったイザナギが悪いんですけども)。



閑話休題。

会場には江戸中期の絵師・呉春とその異母弟・松村景文による合作、
「春秋耕作図屏風」という大きな金屏風も展示されていました。
まず呉春が春の景を描いており、その後客人をもてなすために
追加で景文が秋の景を描いて合わせて一双としたのだとか。
呉春は、京都の金座に勤めていたところ、妻と父を相次いで亡くすという不幸にみまわれ、
師匠であった与謝蕪村のすすめもあって、大坂は池田にしばらく静養していたそう。
呉春の名は、池田の古名である「呉服(くれは)の里」で新春を過ごしたことにちなむようです。
現在の大阪府池田市といえば阪急の創始者・小林一三の住まいが「逸翁美術館」としてあるように
文化的なイメージがありますが、それはこの呉春の頃からだったのだなあとハッとしました。
現在も池田には、中国は呉の国から機織りの技術を日本に伝えた織姫・呉服媛(くれはとりのひめ)を祀る「呉服神社」があります。
着物のことを「呉服」といいますが、これは呉から伝わった機織りの技術に由来しているのですね。

次に驚いたのは、ふっわふわの森狙仙の「子犬図」。
なんてかわいいんでしょう。
猿の絵で有名という森狙仙ですが、イノシシを描いても子犬を描いても
手触りが見る人の手にダイレクトに伝わるような毛並みの描写がすばらしい。
ふっわふわ。
もう一度言いますね。
ふっわふわ。

彼の動物を愛おしみ慈しむ心に触れてもだえそうになりました。
実際に人物画や風景画はほとんどないみたいですね。描いたのは動物ばかり。
後ろ足で首を掻いてる子犬の、まるっこくて温かくて柔らかい姿。
ああ、かわいい~~。

ちなみに私の母にこのことを伝えたら森狙仙、知ってるー!猿の人ーーー!」というので
どうして知ってるの?と聞いたら、「なんでも鑑定団」で取り上げられていたからだそうで。
そういえばいつも見ていたな、母(笑)。

で、最後に深く深く心惹かれた一枚。

それは上田耕冲の「月に蜘蛛の巣図」でした。

耕冲は、幕末・明治に活躍した画家で、なんと93歳(明治44年)まで長生きしたそう。
この「月に蜘蛛の巣図」は明治26年作なので、没年から計算すると75歳頃の作品ということになるでしょうか。

茫漠とした画面に輪郭もうっすらと淡く浮かぶ白い月。
その手前に垂れ下がる細い一本の糸。
そこには落ち葉が絡みそっと風に揺れている…。

ただそれだけの、静かな静かな一枚。

展示の最後を飾るにふさわしい一枚だったと思います。

ああ、前期も見ておけばよかった!
まさに、上方絵師済々、大阪画壇多士済々!
激しく後悔してしまいました。
こんな楽しい後期の展示は、3月15日まで。
そして美術館のHPを見ると、「上方界隈、絵師済々」は二期もあるようです。
2020年9月5日~10月18日

こちらをまた楽しみにしていようと思います。




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