歌舞伎の絵看板は映画の予告編?

「2016早春展 歌舞伎絵看板展 -文明開化の音がする-」
【会期】2016年1月16日(土)~3月6日(日)
本日、逸翁美術館の「歌舞伎絵看板展」へ行って来ました。
正直、展示数のボリュームとしてはそう多くないのですが、たまたま学芸員さんが説明をしてくださる時間だったようで、面白いお話をたくさんお聞きできました。
忘れないうちにφ(..)メモメモ…。
◆絵看板は映画の予告編!?
展示されているのは、逸翁美術館が所有する、明治期の上方歌舞伎の絵看板。道頓堀に巨大な肉筆の絵看板が十枚以上飾られていたそう。特に新作の場合、お客さんは一体どんな話か分からないので面白そうか判断できません。だから、ハイライトシーンを先に掲げて興味をそそったのです。
なるほど~、つまり映画の予告編のような役割があったんだな、と思って一人で納得。
◆最新の情報がこれで分かる!
はっきりいって、絵看板に描かれている役者はどれも同じ顔ばかり。さて、どうやってご贔屓の役者を探すのでしょうか。「そんなの紋に決まってるでしょ」と思ったあなたは、さすが歌舞伎通。しかし面白いのはこれからです。着物に不自然なほど大きく描かれた紋。

このように、袂や裾に不自然なほど大きな紋が入ってます。
当時のお客さんはここを見て、きゃっきゃうふふとご贔屓さんを見つけて楽しんだわけですけど、もしその役者が病気で休演した場合、代役の紋をその上から貼るんだそうです。元の役者が戻ってくれば、またその上に紋を貼る。つまり、最新の出演者が分かるリアルタイム絵看板なわけです。似顔絵などにせずだいたいみんな同じ顔というのも、そういう利便性があるからだそうで。
◆明治の歌舞伎は流行りものがいっぱい!
今までの役者絵の構図などは踏襲しながらも、描かれている役者は着物に革靴をはき、手にステッキをもって帽子をかぶった銀行員や、カンテラをもった郵便夫。文明開化前なら、通行人がわざわざ風呂敷包みを抱えているところを描くことはありませんが、明治に入ってからはこれでもかとばかりに革のカバンを持たせたり、主人公を洋行させたり、牛鍋屋の店先をそっくりそのまま背景に描いたりしていて、いかに新しいものを貪欲に取り入れようとしたかが分かります。看板絵には、当時の人々が何に目を見張ったか、新しいと思ったかが如実に描かれているのですね。北野天満宮の場面で、牛車が出るところに人力車が現れ、その周りで車夫や女性(女形)の学生が踊ったりしているもの面白い。
そうそう、日本では古代以降、指輪は装身具として使われていませんでしたが、明治期に入ってもてはやされだしたというの、言われてみればなんだか不思議ですね。指輪を盗った盗られたのという作品も明治期に上演されたそうで、まさに歌舞伎は世につれ、世は歌舞伎につれ。
◆職人技が光る細部まで見逃せない!
看板絵に描かれた刀には、わざわざ金属紙を貼って光の加減でぎらりと光る工夫があったり、提灯に白い紙を貼って灯りがともっているように見せたり。看板絵なのでお客さんは遠くからしか見ないわけですが、なかなか細かい仕事がなされている様子。小さな鏡にも金属紙が貼られ、そこに小さく龍の絵まで写り込みとして描いてあるとか。「分かる奴だけ分かりゃいいのよ」という、職人の声が聞こえてきそうです。そうそう、絵の具は泥絵といって廉価だけれど発色に優れたもの。
◆私的注目ポイント!
明治期には、イタリアから来たチャリネ曲馬が日本でブームになるんですが、なんと歌舞伎でこのチャリネ曲馬をモデルにした作品を上演しているんですね。びっくり!團菊が演じてました。しかも黙阿弥作。
今回展示された、文明開化時期の歌舞伎作品は、散切り頭から「散切りもの」と呼ばれますが、再演されているものはほとんどないそう(一作品だけ再演されたそうですが、それもすでに30~40年前の話)。上演当時は最先端だった風俗は、10年経ち、20年経てば、残念ながらすべて陳腐、時代遅れになってしまうからですが、でも案外今の感覚を取り入れながらこの散切りものをやると面白そうな気がしたり。
以上、ざっくりとですが覚書きまで。展覧会は土日になると学芸員さんの解説があるところが多いようですが、やはり解説があると説明文を読むだけより楽しいものですね。
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