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2015/09/26

須磨海浜水族園・サイエンスカフェ『河童・人魚・水界の妖怪たち』

夜の水族館。ブルーライトの大水槽を前に、水界の妖怪の話を聞くという貴重な経験をしてきました。

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▲エイやサメなど、いろんな魚がたくさん泳いでいます。

須磨海浜水族園にて、タイトルは『河童・人魚・水界の妖怪たち』。
水族館の1階で18時開演。定期的に行われているというサイエンスカフェですが、妖怪について取り上げるのは初めてだそう。ワンドリンクとおつまみ付きで1000円。なんてお得!

お話は妖怪博士といわれる香川雅信先生。なんと初めて妖怪の論文で博士号をとられた方だそうです。主に江戸時代の資料を多数大画面に表示しながら、水にまつわる妖怪のお話を紹介してくださいました。

どれも興味深かったのですが、とくに印象深かったものをいくつか書いてみますね。

◆河童にも西型と江戸型がある
河童は緑色というイメージがありますが、昔はそうではなく、むしろ毛が生えた猿やカワウソのような獣のイメージ。日本最古の河童の記述は、文永元年の『下学集』。これにかわうそが河童になるという記述があるとか。さらに『日葡辞書』には「cauaro」(かはらう)と記載されているそうです。

たしかにその後も、河童ではなく川太郎と呼ばれており、絵に描かれているのも毛が生えた獣のような生物ばかり。そしてこれらの情報や絵は、古くから文化の中心であった関西で主に発信されていました。しかし江戸時代になってくると、毛がなく、甲羅を背負った河童の姿が現れてきます。これは江戸発の河童の姿。江戸は川が多く、すっぽんや亀などがたくさんいたために、このようなイメージがついたのでは、ということ。八百八橋といわれるお江戸の川の多さが、河童の姿にまで影響していたとは面白いですね。

◆イルカは実は怖かった
現代では愛され水族の筆頭ともいえるイルカですが、こんな不気味な話があったとは知りませんでした。イルカは海面から現れ舟に向かって「〇〇はいるか!!」と叫ぶそうです。いや、冗談ではありません。実は、この〇〇というのは、以前旅人を殺してその金を盗み、金持ちとなった男の名前。さぞやその男はゾッとしたことでしょう。いるかいないかいないかいるか。

また、肉塊となったジュゴンがしゃべったり、スナメリが海坊主と思われて恐れられていたりと、水界は得体のしれない怖さを感じさせる話がたくさん。

あ、そうそう河童の絵で面白かったのがこれ。

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なにこれ?って感じですよね。
実は、カミナリを鳴らしているうちに落っこちてしまった雷様を、河童が引きずり込もうとしてるんですって!
しかもさっきこの絵を探してるときに知ったのですが、
「両国橋の下に落ちた雷神を引き込もうとする河童が雷神の放った屁にたまらず鼻をつまむ場面」
だそうで。何を描いてるんだか江戸人は(笑)

あと、「エイを捕まえたけれどうっかり交わってしまったために、情が移ってしまい海へ返した(このくだり自体、なんやねんって感じですが)。その後『あなたの子供です』というエイの顔に似た子供がやってきてうんぬん」という話の際に、「しかしエイに似た顔ってどんな顔なんでしょうね」と先生が仰ったら、まるでその声が聞こえたように、後ろの大水槽からエイがぬっと顔を出したのには笑ってしまいました。この企画ならではの一場面。

さらにさらに、質疑応答の時間。水族館の館長さんにとって、妖怪好きな人というのは珍しかったようで、「妖怪好きな人は妖怪を信じているのか」ということを手前の方に質問されたところ、その方が「妖怪が実際にいると信じているわけではありません。妖怪好きな方は、民俗学や歴史、美術などさまざまな入口から入っていて、それが出合うところが妖怪なんだと思います」というような(すみません、ちょっとうろ覚え)見事な回答をされていて、すごいなーと思っていたら。

先生「その方、有名な岡山の妖怪研究の大家(たいか)ですよ」
館長「えっ…!」

今回の講演には、東京から来たという方もおられたようで、実はすごい方々がたくさんいらっしゃったのかも。
いろいろお話を聞いてみたかったところですが、そうもいかず後ろ髪を引かれながら帰ってきました。

現在、須磨海浜水族園は、須磨怪奇水族園と期間限定で名称を変更する力の入れようで、『古今東西!水辺の妖怪展』を2015年11月8日まで開催中。かなりユニークな企画だと思いますので、ご興味のある方はぜひ。
私もまだ妖怪展のほうは見ていないので、期間内に行こうと思っています。

◆須磨海浜水族園。愛称は「スマスイ」
http://sumasui.jp/
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2015/06/05

江戸風俗アンソロジー「鮨詰 江戸にぎり」通販開始!

私が8ページ、文章を寄稿させていただいた江戸風俗アンソロジー「鮨詰 江戸にぎり」の通販が始まりました。
主催は漫画家の紗久楽さわさま、そして同じく漫画家のねこしみず美濃さま。
通販ページはこちら

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「江戸風俗を愛する 十一人の女子が 各々興味のある風俗を執筆!」

ということなのですが、漫画家やイラストレーターとして華々しく活躍されてらっしゃる方々の中に、なにかの手違いのように私も混ぜていただいて恐縮しきり。
そもそも「十一人の女子」という女子の中にも、入れてもらっていいのかどうかという年齢…なので、もうこれはすみませんと謝るしかありません。
江戸時代なら年増どころか大年増…もとっくに越えて…。いやはやまったく、ひどいもんですね江戸時代(笑)

私は『大江戸獄中奇譚』と題して、江戸時代に小伝馬町にあった牢屋敷について書かせていただきました。
牢屋敷図や、牢内用語など、ちょっと覗いてみたいお江戸のダークサイドをご案内。
見本

この原稿を書き終えたのは、昨年、2014年の末でした。お話をいただいたときに(これはかなり前でしたが)、私はイラストレーターやらフォトショップやらのソフトが全く使えないからどうしましょうと相談させていただきましたら、主催者のお一人である美濃さんがデザインを引き受けてくださいました。本当にありがとうございます。感謝いたします。

で、本の内容ですが、出来上がったものを拝読しまして、もう本当に素晴らしくて感動しました。
執筆者の方々の、江戸への想いがあふれていて、それぞれの薀蓄がすごいことになっています。一行の文章、一コマの絵の中にも、それぞれの方が、調べ悩み驚き楽しみ考えたことが詰まっているのが感じられるのがうれしい。また皆さん、すごいなあと尊敬せざるをえません。一読者としても本当に面白く、勉強になることもたくさんありました。
せっかくですので、ネタばれにならない程度に、軽く感想を書かせていただきたいと思います。

◆『江戸風俗往来』ねこしみず美濃
江戸の風俗を愛してやまない美濃さんならではの、タイトルどおり髪型や服装の教科書(往来とは寺子屋で使う本、今でいう教科書のこと)というべき内容。前期、中期、後期、末期と時代別に詳しく説明されています。私は美濃さんがTwitterで仰っていた「着ているものはその人のコンプレックスをも表す」という言葉に、ハッとさせられたことがあるんですよ。服装は自分で思っているより、ずっと雄弁なのだなあ、と改めて気づかされました。
ちなみに私は「灯籠鬢(とうろうびん)」という髪型の詳しいところを知りませんでした。へーそうだったのね!そしてこれを知ってから、後述する水都正枝さんの「井戸端」を読んで、おおー!と感動。

◆『江戸の園芸』撫子凛
江戸時代、身分をとわず大人気だった園芸についてのイラスト&エッセイ。私は凛さんのイラスト大好きなんですが、驚いたのは凛さん、文章もすごくお上手なんですね~。特に各タイトルの付け方がイイ!文章も軽快で、話し手の顔が見えるよう。こういうのはセンスだと思うので、おお!ふおお!とにまにましながら拝読しました。私的には、あの旗本親子がお気に入り♪

◆『みんな水の中』羽人
中洲新地をテーマに描かれたストーリー漫画。初めて拝読した作家さんですが、何度も読み込むほどに味わい深くなる、とても魅力的な作品でした。かつての中洲新地の雰囲気を、歓楽地の賑わいを、水の揺らぎの向こうに蘇らせて見せてもらったような気がします。詩的なところも印象深いですね。

◆『長屋の一日』桐丸ゆい
本当に長屋の朝から晩までが、かわいらしいタッチの漫画で描かれています。これ好き!一日といわず、二日でも三日でもずーっと見ていたい!日めくりみたいに、一日ずつこの長屋の風景をめくっていきたい!と、作者さまの労力はお構いなしにねだりたくなります(笑)何ということもない日常が、ほんとうに愛しくてなりません。

◆『お江戸お鮨噺』井出めい
江戸時代のお鮨をテーマにした漫画。お鮨というテーマに沿いながら、ちゃんとかわいいオチが利いている!そして、鮨についてまだまだ知らないことがあったなーとびっくり。とにかくお鮨がおいしそうで、お腹が鳴ります。個人的には、アナゴとたまごまきが食べたい!

◆『井戸端』水都正枝
時代劇ではお馴染みの同心が活躍するストーリー漫画。面倒だと言いながら、怪異な事件をズバッと解決する同心のだんながカッコいい。そして、出てくる(どこから?)女性の灯籠鬢にをよく見ると…、おおっとなります。いや絵を描く方は、実に細かいところまで注意されていますね~。コラムも愛があふれてます。

◆『袈裟のはなし~江戸時代篇』逆名
袈裟というものがこれほど多様とは…。いかに普段、概念で物を見ているかということに気づかされます。お坊さんはどんな宗派であろうとも、ほぼ一緒に見えていたわたくしを殴りたい。いろんな法衣袈裟をまとった美僧や美童が描かれていて見惚れますよ。ほくほく。

◆『俺たち天下の町火消!』百々敬子
これはもう、かっこいいとしか言いようがありません!もうね、絵が迫力ありすぎてバックドラフトかと。ハリウッド映画かと。そりゃ、火消しが江戸の三男と呼ばれて(残りは力士と与力ね)モッテモテだったのわかるーっ!と全力で首を高速縦フリしたくなります。

◆『江戸戯作への案内』宮木りえ
江戸の戯作は、現代の私たちに馴染みのないくずし字のせいで、とても難しく感じがち。でも内容を知ると、黄表紙なんかはもう拍子抜けするくらい下らなくて笑っちゃうんですよね~。そんな戯作の世界へのとっかかりを、楽しく教えてくれる説明漫画。擬人化した黄表紙や洒落本が、分かりやすくてステキです。江戸の人魚はフリーダムだ!

◆『にしきえのできあがり!』紗久楽さわ
浮世絵がどうやって作られていくかを、臨場感たっぷりに描いた説明漫画。集中して作業する職人たちがその汗さえもあまりにもリアルで、読んでるこちらも息をとめて見つめてしまいます。細々とした道具類や、刷毛についた水、筆に含ませた墨など、細部まで美しくてうっとり。版画作ってるだけなのになんでこんなに艶っぽいのか!もう一度言います。版画作ってるだけなのになんでこんなに艶っぽいのか!ありがとうございますっ!

ほかに巻末には、おまけ年表もついてます!こんなに江戸まみれの楽しい本があるでしょうか。
ぜひお手元に置いて、ゆっくりお楽しみいただきたいと思います。よろしくお願いいたします!

2015/05/14

二胡と胡弓と浮世絵と

◆今回は、二胡と胡弓のちがい。そして江戸時代の胡弓が描かれた浮世絵についてのお話です◆

二胡と胡弓の合奏、という面白い動画を見つけました。
向かって右側が二胡、左側が胡弓です。



二胡の胴が見えづらいので、二胡単体の演奏も。
上記は中国の伝統曲でしたが、「情熱大陸」などいかが。



胡弓単体の演奏はこちら。



二胡と胡弓は同じものと思われがちなのですが、これを見てもらえば一目瞭然。
似てるところもありますが、異なる楽器だということが、お分かりになると思います。

せっかくなので、私の二胡をご覧ください。

二胡1

特に分かりやすいのは、胴部分。胡弓はまるで三味線のような形ですが、二胡は六角形(八角形などもあるが基本的には)の筒です。

二胡3

さらに動きを見ると、二胡は竿をまったく動かさず、胴をしっかりと膝の付け根に置いています。
そして右手の弓は、出来る限りまっすぐに動かす。
詳しくいうと、二胡は二本の弦の中に弓毛を挟んでいて、簡単に言えば、内側の弦(内弦)をこすると低い音が、外側の弦(外弦)をこすると高い音がでます。

二胡2
内弦と外弦に挟まれた弓毛(馬の毛)。


胡弓のほうは竿をくるくると動かして、右手の弓を弦に当てていますね。
弦は、3本から4本(5本ということもあるようですが)。
二胡とはちがって、ヴァイオリンのように、弓と本体は別々に離れています。

私は約2年前から二胡を習い始めましたが、その前はやっぱり二胡と胡弓を混同していました。
二胡をさして「胡弓っていいよね~」なんて言っていました。
近くには「胡弓教室」と看板に書いていて、実際は二胡教室というところもあります。
これは教室が間違っているわけではなくて、胡弓という言葉のほうが、日本人にはなじみがあるだろうということかもしれません。
あるいはあえて胡弓という言葉を、二胡も含んで異国風の擦弦楽器くらいの、広義にとらえている方もいらっしゃるのでしょう。

さて、この胡弓という楽器、私は実際に弾いたこともありませんし、詳しいわけではありませんが、調べてみるとどうやら江戸初期から現れたようですね。
日本だけのもので、中国やほかの国にはありません。
由来は諸説あるようですが、先日、私の二胡の先生と雑談中に、「胡弓はどうみても二胡というより三味線に近い。西洋の楽器を見た長崎あたりの人が、三味線を改良したりして作ったんじゃないか」なんて話していたくらいで、私もそんな風に感じます。

江戸時代の浮世絵にも、わりと多く描かれているようです。音楽を楽しんでいた雰囲気が伝わってきて、二胡を習いだしてから、とくにこういう演奏中の絵に目がいくようになりました。

英泉胡弓
(1)渓斎英泉(1790~1848年)作。琴、三味線、胡弓(または尺八)の合奏を、「三曲合奏」というそうです。

三曲合奏2
(2)これは喜多川歌麿(1753~1806年)作。女子たちがイケメンの吹く笛にうっとりしてますね。胡弓はどこかな…?

春信胡弓
(3)鈴木春信(1725~1770)が描く二人。教えてあげているところなんでしょうか。演奏どころじゃない気がしますね。

三曲合奏1
(4)もうこうなると何が目的かわかりません。石川豊信(1711~1785)作。
ちなみに石川豊信は、上記の鈴木春信に影響を与えたといわれている人だそうで。ほーなるほど。

さて、現在(2015年5月)、杉浦日向子原作「百日紅」が映画化されて注目されている、北斎の娘・お栄の肉筆画にも「三曲合奏図」があり、胡弓が描かれていますね。

三曲合奏図

画面真ん中の琴を弾いている女性は、遊郭の女性。右側の三味線は、芸者さん。そして左上の胡弓を弾いているのが、町娘。実際にこのような階級のちがう女性たちが、一堂に会して合奏することは難しいので、お栄の想像により、あるいは何らかのテーマをもって描かれているのだろうといわれます。
私は以前、展覧会でこの絵を目にしたことがありますが、細やかな着物の柄やグラデーション、楽器を弾く手つきなど、細部にまで注ぎ込まれた尋常ではない集中力を感じました。
胡弓をもつ町娘の手や恰好は、かなりデフォルメされている感じがしますが、胡弓の竿をくるくると動かしながら弾く様子がよく伝わって来るなと思います。この絵から、音が流れたら楽しいだろうなあ。

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北斎の娘・お栄については、先ほど発行されたばかりのこちらの本に詳しいです。
『北斎娘・応為栄女集』久保田 一洋 (著)
北斎娘・応為栄女集

画集だからか、いきなり絵の細部についての説明から始まるので、予備知識がないと少し唐突かもしれません。
最初に、お栄の人となりや、北斎の代筆もつとめていたとされること、その時代の絵師についてなど、さらりとでも説明があったほうが良かったなーと思いました。
しかし巻末には、しっかりとお栄に関する論文や資料が掲載されているので、興味がある人にはオススメです。江戸時代の胡弓の話も、最初のほうに詳しく出てきますよ。